保険医協会の全国誌「月刊保団連」9月号で、横浜国立大学の萩原教授が、「ターゲットにされる医療」と題して、TPP、医療ツーリズム、医療システムの輸出などによる、医療分野での市場原理主義が、国民皆保険制度の崩壊をもたらすと指摘しています。
〈米国は日本の医療分野へ市場原理主義を要求〉
米通商代表部『2010年外国貿易障壁報告書』より
「日本の医療市場は、世界最大の1つだ。2007年、日本の医療機器と医薬品市場は180億ドルを超え、米国からの医療機器の全輸入は50億ドルを超えて、27%の市場占有率を占めた。日本の医薬品市場は600億ドルと見積もられ、米国製薬会社は20%近い市場占有率、120億ドルの総売上を達成した。しかし、こうした市場規模にもかかわらず、世界で多く利用されている医薬品と医療機器が日本ではいまだ導入されていないことがあり、それは、規制によるもので、ほぼ4年のタイムラグが発生するからだ」
「制限的な規制が医療サービス市場への外国からのアクセスを制限している。米国政府は、引き続き日本に対しこのセクターを外国サービス提供者に開放し、商業企業体がフルサービスの利益追求型の病院(日本の経済特区を通じて)を提供できる機会を認めるよう求める」
〈医療ツーリズム、医療システムの輸出〉
医療ツーリズムとは医療を受ける目的で、他の国へ渡航することで、現在50ヵ国で実行されている。2008年で600万人程度、市場規模は1000億ドル。
財界は、日本の医療ツーリズムの潜在需要は、年間43万人程度、市場規模は5500億円、経済波及効果は2800億円と見積もっている。
産業構造審議会産業競争力部会報告書「産業構造ビジョン2010」は、医療サービスの国際化に向けた戦略的取り組みが必要だと論じ、その課題を設定している。
①官民一体となった受け入れ支援機構の設立の必要性
②外国人受け入れ医療機関の認証、外国人医師の受け入れなどの規制緩和
③医療滞在ビザの創設
④日本による医療システムの輸出
「昨年度の補正予算で医療の国際化事業として経済産業省げ計上した3億5000万円を活用。海外で実際に医療サービスを提供しながら進める事業化調査に6事業が選ばれた」(「朝日新聞2011年7月13日付)
萩原教授は「官民一体となった市場原理主義的行動は、日本の国民皆保険制度に何をもたらすのだろか」と問題を投げかけ、「儲からない公的医療保険診療は、おろそかにされる、混合診療が全面解禁される、医療機関の営利化、すなわち株式会社化が進むことになるに違いない」と指摘している。
そして、「国民の健康のために政府支出を増やす『社会福祉大国』をめざすべきだ」と訴えている。
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